講演紹介
Speakers and Abstracts

人共存ロボットとその社会実装における課題と展望

淺間 一(東京大)
Hajime ASAMA

概要(Abstract)

 今後のロボット産業の主役として、人と共存する環境において安全に稼働し、様々なサービスを提供できるロボットが期待されている。人共存ロボットには、無限定環境で適応的に行動するのみならず、人との多様なインタラクションを行い、求められるタスクを遂行する機能が要求される。一方、その社会実装においては、社会受容性などについても考慮する必要がある。本講演では、人共存ロボットに求められる機能を実現する技術と、その社会実装を進める上での課題について述べる。また、ELSIなどの社会科学的な視点、心理学的な視点も含め、人共存ロボットの社会受容性や、人や社会のWell-beingの実現・向上に向けた展望について述べる。

略歴(Biography)

1984 年東京大学大学院修士課程修了。1989年工学博士(東京大学)。1986年より理化学研究所。2002 年東京大学人工物工学研究センター教授。2009 年同大学院工学系研究科教授。2024年同大学国際高等研究所東京カレッジ特任教授。サービスロボティクス、自律分散型ロボットシステム、移動知、身体性システム科学の研究およびロボット技術の社会実装等に従事。日本機械学会技術功績賞(2018)等受賞。IEEE RAS AdCom member (2007-2009)、日本ロボット学会副会長(2011-2012)。日本学術会議会員(2017-2023)。IFAC会長(2020-2023)。日本機械学会副会長(2023)。IEEEフェロー、日本機械学会フェロー。日本ロボット学会フェロー、計測自動制御学会フェロー。

インフォデミック時代におけるフェイクメディア克服の最前線

越前 功(国立情報学研究所)
Isao ECHIZEN

概要(Abstract)

 顔、音声、身体、自然言語などの人間由来の情報をAIが学習し、本物と見紛うシンセティックメディアの生成が可能になった。シンセティックメディアは、コミュニケーション分野やエンターテイメント分野など様々な用途で活用されている。一方で、シンセティックメディアの負の側面として、詐欺や思考誘導、世論操作を行う目的で、フェイク映像、フェイク音声、フェイク文書といったフェイクメディアを生成、流通させる事例が発生しており、社会に恐怖や混乱を引き起こす不確かな情報の氾濫「インフォデミック」が生じている。本講演では、このようなフェイクメディアによる脅威を概説するとともに、講演者らがJSTの戦略事業(CREST)のもとで現在進めている研究プロジェクト「インフォデミックを克服するソーシャル情報基盤技術」(CREST FakeMedia)の最新の研究成果について紹介する。

略歴(Biography)

1997年東京工業大学 大学院理工学研究科 応用物理学専攻 修士課程修了。日立製作所システム開発研究所を経て、現在、国立情報学研究所 情報社会相関研究系 研究主幹・教授。同研究所 シンセティックメディア国際研究センター長。東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授。2010年ドイツ・フライブルク大学客員教授、2011年ドイツ・マルティン・ルター大学客員教授。2025年文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)および 電子情報通信学会業績賞、2016年 情報セキュリティ文化賞、2014年 ドコモ・モバイル・サイエンス賞など受賞。IFIP日本代表およびIFIP TC11日本代表。博士(工学)(東京工業大学)。

外観検査における人間中心型の作業改善・作業設計とAI活用に関するIE研究

中嶋良介(慶應義塾大)
Ryosuke NAKAJIMA

概要(Abstract)

 人間による外観検査作業において、多くの光源を用いて強い光を検査対象に照射する検査環境は適切でしょうか?検査者がキズや汚れなどの欠点を注意深く探索する検査方法は適切でしょうか?本講演では、人間の視覚特性の理解に基づき、人間中心型の検査環境と検査方法を構築するための考え方について実際の事例を用いてご紹介します。また、AI技術を活用した外観検査の作業支援の方法論についても研究データを交えてご紹介します。これらを踏まえて、今後の人間と機械の協働の可能性・あり方・改善活動の進め方について議論できればと考えております。

略歴(Biography)

2016年青山学院大学大学院理工学研究科理工学専攻マネジメントテクノロジーコース博士後期課程修了、博士(工学)。2014年より日本学術振興会・特別研究員(DC2)、2016年より成蹊大学理工学部システムデザイン学科・助教、2018年より電気通信大学大学院情報理工学研究科情報学専攻・助教を経て、2023年より慶應義塾大学理工学部管理工学科・専任講師となり、現在に至る。IE(インダストリアル・エンジニアリング)の研究に従事。日本経営工学会、日本設備管理学会、日本人間工学会、日本IE協会などの会員。

深層異常検知を中心とした外観検査AIの全体像と最新動向

中塚俊介(パナソニック)
Shunsuke NAKATSUKA

概要(Abstract)

 本講演では、外観検査AIの中核技術である深層異常検知について、最新研究を中心に俯瞰します。従来の単一クラス前提から多クラス対応への進展、擬似欠陥画像生成や擬似欠陥特徴生成を活用した分類による高速化、さらに大規模視覚言語モデルの登場による説明性向上など、近年注目される技術的潮流を整理します。原理や代表的アプローチを概観し、現状の課題と今後の方向性をサーベイ的視点から提示します。

略歴(Biography)

・2019年 岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士課程修了。異常検知および生成モデルに関する研究に従事。
・2019年〜現在 パナソニック株式会社に入社。ライフソリューションズ社・エレクトリックワークス社において、生産技術開発に従事。特に、検査設備の開発や生産現場向けソフトウェアの開発を担当。
・2021年〜現在 岐阜大学大学院 工学研究科 博士後期課程(社会人博士課程)に在籍。異常検知、能動学習、大規模視覚言語モデルに関する研究に従事。

実世界データ駆動のデジタルツインと量子最適化による物流革新

河口信夫(名古屋大)
Nobuo KAWAGUCHI

概要(Abstract)

 実世界の現象を理解・活用するためには、データ取得と可視化・分析が不可欠です。本講演では、名古屋大学が進めてきたデータ収集・分析・可視化の取組と、大規模カメラ基盤による物流倉庫のデジタルツイン構築事例を紹介します。物体認識・人の行動分析を通じて、倉庫内の流れを最適化する取り組みを解説するとともに、ブラックボックス最適化と量子アニーリングを融合したFMQAによる量子最適化の可能性を示します。さらに、人手不足対応に向けた遠隔ロボットを活用した新しい働き方「メタワーク」も紹介します。

略歴(Biography)

・1995年 3月 名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻 博士課程後期課程満了 博士(工学)(1997年2月取得)
・1995年 4月 名古屋大学工学部 助手
・1999年 4月 名古屋大学工学研究科情報工学専攻 講師
・2000年10月 名古屋大学大型計算機センター 助教授
・2006年 4月 名古屋大学工学研究科電子情報システム 准教授
・2009年 6月 名古屋大学大学院工学研究科計算理工学専攻 教授
・2014年 4月~ 名古屋大学未来社会創造機構 教授 現在に至る
その他:
・2012年 9月 NPO法人位置情報サービス研究機構 設立 (代表理事に就任、現在まで)
・2015年12月 自動運転ベンチャー TIER-IV 設立(設立時 取締役、現在 フェロー)
・2016年 8月 総務省スマートIoT推進フォーラムテストベッド分科会 分科会長
・2018年~2022年 日本学術振興会 学術システム研究センター 主任研究員

集団スポーツにおける機械学習を用いた分析の発展と民主化

藤井慶輔(名古屋大)
Keisuke FUJII

概要(Abstract)

 計測技術や画像処理、機械学習の急速な発展によりスポーツにおける動作データ解析への期待が高まっている。動作の計測や認識、分類、予測、評価、提案といった技術要素が存在するが、データ取得の権利の問題や難しさ、動きの複雑さや判断の高度化によるモデル化の困難さにより、未解決の問題も依然として多い。本発表では、主に集団スポーツを対象にした、画像処理技術を用いたデータの自動取得や、機械学習に基づく反事実予測による動作評価、さらに強化学習を活用した全局面・全選手の評価と最適行動の提案に関する取り組みを紹介する。最後に、これらの技術の民主化への取り組みとして、様々なデータの公開、オープンソース解析プラットフォームOpenSTARLab、開催したコンペティションなどを紹介し、今後の展望についても議論する。

略歴(Biography)

2014年京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号を取得後、理化学研究所革新知能統合研究センターの研究員などを経て、2021年から名古屋大学大学院情報学研究科准教授。2020年科学技術振興機構さきがけ「信頼されるAIの基盤技術」さきがけ研究者。2025年文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。機械学習とスポーツアナリティクスの融合などに関する研究に従事している。

河道閉塞災害対応を目指したロボットシステムの研究開発

永谷圭司(筑波大)
Keiji NAGATANI

概要(Abstract)

 我々は、ムーンショット型研究開発事業(目標3)において、「多様な環境に適応しインフラ構築を革新する協働AI ロボット」というテーマで、2020年12月より、フィールドで活用可能なロボットシステムに関する研究開発を進めてきた。2025年は、プロジェクト最終年であるため、河道閉塞災害に対応可能なロボットシステムのインテグレーションを中心に研究開発を進めた。本発表では、ロボットシステムによる河川閉塞災害への対応シナリオと、開発したロボットシステム、それに基づいて実施した2つのシナリオデモの概要を紹介する。

略歴(Biography)

1997年 筑波大学大学院博士課程修了 博士(工学)。カーネギーメロン大学機械工学科(ポストドクトラルフェロー)、岡山大学 大学院 自然科学研究科 講師、東北大学 大学院 工学研究科 准教授、東北大学 未来科学技術共同研究センター 准教授、東京大学大学院工学系研究科 特任教授を経て、現在、筑波大学 システム情報系 教授。SIP 「スマートインフラマネジメントの構築」 のサブ課題A 研究開発責任者。フィールドロボティクスの研究に従事。日本ロボット学会、計測自動制御学会、日本機械学会、IEEE等の会員。

目視検査の課題を共有する~検査照明の使い方と周辺視の見方の実演指導を兼ねて~

石井 明(香川大)
Akira ISHII

概要(Abstract)

 不良はなぜ目視検査工程をすり抜けるのか? この問いに、人が検査を行うからと答える方が多いと思います。しかし、不良の見逃しは当人には意識できなかったことであり、単なる注意・叱責では問題解決にはなりません。なぜ、不良を見逃したかを明らかにし、改善を図ることが必要です。一方、不良はなぜ目視検査工程に流れるか、考えたことはありますか。前工程において、特に画像処理検査で発生していた不良の見逃しの問題を先送りしていませんか。目視検査は最後の砦です。生産技術の方も品質管理の方も一緒になって問題解決を図らねばなりません。講演では、検査照明の使い方と周辺視の見方の実演指導を兼ねて、目視検査の課題を共有します。

略歴(Biography)

学歴 1980年3月 電気通信大学大学院機械工学専攻修了
職歴 1980年4月~1998年3月 電気通信大学助手、講師、助教授
1998年4月~2021年3月 香川大学工学部助教授、教授
専門 マシンビジョン 目視検査 非破壊検査 材料強度
委員 1987年7月~現在     画像応用技術専門委員会委員(2022年2月特別委員)
   2010年2月~現在     画像応用技術専門委員会 WG14感察工学研究会主査
   2017年12月~現在    PVI2017外観検査ワークショップ(横浜パシフィコ)創設
                   PVI2018, PVI2019, PVI25th(2023), PVI2024, PVI2025